RX 5700 XTはRTX 4000/RX 7000時代の「遺産」か「現役」か? 6年間の進化の波を考察
2025年秋。ゲーミングPC市場は、次世代機(PS6や次期Xbox)の足音も聞こえ始め、グラフィックボード(GPU)の世界もNVIDIAのRTX 5000シリーズやAMDのRX 8000シリーズの噂で持ちきりです。最新のAAAタイトルは、リアルタイムレイトレーシングやAIを駆使した超高画質化が当たり前になりつつあります。
そんな中、ふと中古市場に目を向けると、かつての人気モデルが驚くほど安価に取引されています。その代表格が、2019年7月に登場したAMDの**「Radeon RX 5700 XT」**です。
発売から実に6年以上が経過したこのGPU。 「今さらRX 5700 XTなんて、まともにゲームができるのか?」 「中古で安くPCを組みたいけど、選択肢としてアリ?」 「今まさに使っているけど、一体いつまで戦えるんだろう?」
本記事では、2025年現在の視点から、この「6年目の古強者」RX 5700 XTの真の実力を徹底的に解剖します。性能、用途、メリット・デメリット、そして将来性まで、購入検討者と現役ユーザー、双方の疑問に答える完全ガイドです。
1. RX 5700 XTとは? 2025年の視点で振り返る
まずは、RX 5700 XTがどのようなGPUだったのかを簡潔に振り返りましょう。
- 発売日: 2019年7月
- アーキテクチャ: RDNA (第1世代)
- VRAM: 8GB GDDR6
- 主な特徴:
- AMDのグラフィックス部門を復活させた立役者。
- 当時としては画期的な7nmプロセスルールを採用。
- PCIe 4.0にいち早く対応。
- 当時のライバルはNVIDIAの「RTX 2060 SUPER」や「RTX 2070」。
- 発売時の立ち位置は「1440p (WQHD) ゲーミング」をターゲットにしたアッパーミドル~ハイエンド機。
最大のポイントは、アーキテクチャが**「RDNA 1」であることです。これは、ハードウェアベースのレイトレーシング(RT)機能(AMDでいう「Ray Accelerator」)を搭載していない**ことを意味します。この点が、2025年現在のゲーム環境において最大の足枷となります。
2. 2025年現在のパフォーマンス:驚くべき「しぶとさ」
では、2025年現在のゲームで、RX 5700 XTはどれほどのパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。
📈 ラスタライズ性能:いまだ健在
まず、レイトレーシング(RT)を使わない、従来の描画方式(ラスタライズ)の性能です。これは驚くべきことに、いまだに強力です。
- 現行エントリークラスとの比較:
- RTX 3050 (8GB) や RX 6500 XT (4GB) といった現行(または一世代前)のエントリーモデルより明らかに高速です。
- 現行ミドルクラスとの比較:
- RTX 4060 (8GB) や RX 7600 (8GB) と比較すると、タイトルによりますが、互角か少し劣る程度。
- 一世代前の人気モデル RTX 3060 (12GB) とは、ほぼ同等か、RX 5700 XTがやや優位な場面も多いです。
つまり、RTオフの純粋な「殴り合い」の強さ(ラスタライズ性能)だけを見れば、RX 5700 XTは2025年においても「ミドルレンジ」の性能を維持していると言えます。これは、もともとの素性の良さと、6年間にわたるドライバの最適化の賜物です。
🎯 2025年の現実的なターゲット解像度
- 1080p (Full HD / 1920×1080):
- これが現在の「最適解」です。
- 『Apex Legends』『VALORANT』などのeスポーツタイトルでは、144Hzや165Hzの高リフレッシュレートモニターを余裕で活かせます。
- 『Starfield』『Alan Wake 2』『Cyberpunk 2077』(RTオフ) といった重量級AAAタイトルでも、設定を「中~高」に最適化すれば、平均60FPSを狙うことが十分に可能です。
- 1440p (WQHD / 2560×1440):
- 発売当時のターゲットでしたが、2025年のAAAタイトルには荷が重いです。
- 設定を「低~中」まで落とし、後述する「FSR」を積極的に活用すれば60FPSを維持できるゲームもありますが、快適とは言い難い場面が増えてきます。
- 軽めのゲームや、数年前のAAAタイトルならまだ十分楽しめます。
- 4K (2160p):
- 完全に対象外です。
🚀 延命の切り札:FSR 3 (FidelityFX Super Resolution)
RX 5700 XTの寿命を劇的に延ばしているのが、AMDのアップスケーリング技術**「FSR」、特に「FSR 3」**の存在です。
- FSRとは?: 低い解像度でゲームを描画し、AI(FSR 1/2)や独自の技術(FSR 3)で高解像度に引き伸ばす(アップスケールする)技術です。画質をあまり落とさずにフレームレートを大幅に向上させることができます。
- RX 5700 XTとFSR: FSRはNVIDIAのDLSSとは異なり、特定のAIコア(Tensorコア)を必要としないため、RX 5700 XTのような古いRDNA 1世代のGPUでも動作します。
- FSR 3 フレーム生成 (Frame Generation):
- これが最大の武器です。FSR 3は、DLSS 3(RTX 40シリーズ限定)の「フレーム生成」に似た機能を、RX 5700 XTでも利用可能にします。
- 描画したフレームの間に「AIが生成した補間フレーム」を挿入することで、フレームレートを擬似的に倍増させることができます。
- 例えば、素の性能で40FPSしか出ないゲームでも、FSR 3を使えば70~80FPSでプレイできる可能性があります。(※遅延が若干増えるため、競技性の高いFPSには向きません)
2025年現在、多くの新作ゲームがFSR 3に対応(または対応予定)であり、これがRX 5700 XTの「延命装置」として強力に機能しています。
📉 最大の弱点:レイトレーシング(RT)
RX 5700 XTの「限界」も明確です。それはレイトレーシング性能です。
- RDNA 1アーキテクチャには、RT処理専用のハードウェアがありません。
- 一応、ソフトウェア(DXR)で動作させることは可能ですが、パフォーマンスの低下が壊滅的で、実用的ではありません。
- 2025年のゲームでは、RTが「標準画質」の一部となりつつあります。美しい光の反射や影を体験したい場合、RX 5700 XTは選択肢から外れます。RTは「オフ」が絶対条件です。
3. 用途別:2025年のRX 5700 XT
このGPUの特性を踏まえ、具体的な用途を評価します。
- 1080p ゲーマー(高リフレッシュレート)
- 評価: ◎(最適)
- 予算を抑えつつ、Full HDでeスポーツタイトルをヌルヌル動かしたい人には最高の選択肢の一つです。AAAタイトルもFSR 3を駆使すれば十分快適に遊べます。
- 1440p ゲーマー
- 評価: △(条件付き)
- 「画質設定は中でいい」「FSRを常時オンでも構わない」「プレイするゲームは少し前の世代がメイン」という条件なら可能です。しかし、最新ゲームを1440pで快適に遊びたいなら、力不足は否めません。
- クリエイティブ作業(動画編集・3D制作)
- 評価: ✕(非推奨)
- 動画編集: 8GBのVRAMは1080pや簡単な4K編集には足りますが、当時のAMDのビデオエンコーダー(VCE)は、NVIDIAのNVENC(特にRTX 30/40世代)に比べて品質・速度ともに劣ります。
- AI・3D: BlenderなどのレンダリングはNVIDIAのCUDAやOptiXが圧倒的に強く、AI(Stable Diffusionなど)もNVIDIAのTensorコアが必須級です。クリエイティブ用途には全く向きません。
結論として、RX 5700 XTは2025年において**「1080p・RTオフ・ゲーム専用」**と割り切るべきGPUです。
4. メリットとデメリット(2025年版)
2025年にあえてRX 5700 XTを選ぶ(または使い続ける)場合の長所と短所をまとめます。
🟢 メリット
- 圧倒的な中古コストパフォーマンス
- これが最大の存在理由です。2025年現在、中古市場では非常に安価(1万円台前半~中盤程度と想定)で流通しています。この価格で「ミドルレンジのラスタライズ性能」と「FSR 3」が手に入るのは破格です。
- 強力な1080pラスタライズ性能
- 前述の通り、RTX 3060やRTX 4060に(RTオフなら)匹敵する純粋なパワーは、6年経った今も色褪せていません。
- FSR 3(フレーム生成)の恩恵
- RTX 40シリーズの専売特許だったフレーム生成技術の恩恵を受けられるため、重いゲームでの生存率が劇的に上がります。
- VRAM 8GB
- 近年のAAAタイトルは1080pでもVRAMを6GB以上要求することが増えてきました。4GBや6GBのGPUが脱落していく中で、「8GB」という容量は2025年においても最低限の生命線となっています。
🔴 デメリット
- レイトレーシング性能の完全な欠如
- 「RTをオンにする」という選択肢が事実上存在しません。今後のゲームでRTが必須(またはRTオフの画質が著しく低い)となった場合、即座に限界が訪れます。
- VRAM 8GBの限界
- メリットであると同時に、デメリットでもあります。2025年の最新AAAタイトル(特にUnreal Engine 5採用作品)では、1080pの最高設定でVRAM 8GBを超えるケースが出始めています。テクスチャ設定を「高」や「中」に下げる妥協が必要になります。
- 消費電力と発熱
- RDNA 1は電力効率が良くありません。TDP (TBP) は225Wと、同等性能のRTX 4060 (115W) や RX 7600 (165W) と比べて非常に大食いです。
- 電気代がかかるだけでなく、発熱も大きめです。特に発売初期のリファレンスモデル(ブロワーファン)は騒音と熱が酷いため、中古で選ぶ際はオリジナルの2連・3連ファンモデルが必須です。
- 最低でも**600W~650Wクラスの品質の良い電源ユニット(PSU)**が要求されます。
- 中古品のリスク
- 当然ながらメーカー保証はありません。過去にマイニング(仮想通貨採掘)で酷使された個体である可能性もゼロではなく、寿命のリスクを抱えています。
5. 将来性と限界
RX 5700 XTの「余命」はどれくらいでしょうか。
将来性(延命要素) RX 5700 XTの将来は、FSR 3の普及にすべてがかかっています。今後リリースされるゲームの多くがFSR 3に対応し続ける限り、1080p環境であれば「設定を妥協しつつ遊ぶ」ことは可能でしょう。
限界(買い替えトリガー) 限界が訪れるのは、以下のいずれかのタイミングです。
- VRAM 8GBでは起動すら困難、または最低設定しか選べないゲームが登場した時
- FSR 3を使っても、1080pで平均60FPSを維持できなくなった時
- ゲーム側が、RDNA 1が対応していない新機能(例: Mesh Shadersの高度な利用など)を必須とした時
2025年現在はまだ「過渡期」ですが、2026年~2027年頃には、1080pでのAAAタイトルプレイも厳しくなると予想されます。
6.【購入を検討している人へ】2025年の「賢い」買い方
2025年に、中古のRX 5700 XTは「買い」なのでしょうか?
⭕️「買い」のシナリオ
- とにかく予算がない(GPUに2万円以上出せない)。
- ターゲットは1080p (Full HD) モニター。
- レイトレーシングには一切興味がない。
- FSR 3や画質設定の調整を自分で行うことに抵抗がない。
- 650Wクラスの良質な電源と、エアフローの良いPCケースをすでに持っている。
これらの条件をすべて満たすなら、中古のRX 5700 XTは最高のコストパフォーマンスを提供します。
❌「待ち」または「他を選ぶべき」シナリオ
- 1440p (WQHD) モニターを使いたい。
- 『Cyberpunk 2077』や『Alan Wake 2』をレイトレーシングをオンにして遊びたい。
- 消費電力やPCの騒音・発熱が気になる。
- PCの知識があまりなく、設定最適化などは面倒。
- あと数万円の予算を追加できる。
もし予算を追加できるなら、新品の「RTX 4060」や「RX 7600」を買う方が、電力効率、AV1エンコード、DLSS 3(4060のみ)、そして何よりメーカー保証という安心感の面で、はるかに賢明な選択です。
また、中古市場でのライバルとして**「RX 6600 XT / RX 6650 XT」(RDNA 2で電力効率が劇的に改善)や、「RTX 3060 12GB」**(RT性能がありVRAMが12GB)も存在します。これらと価格をよく比較検討することが重要です。
7.【現在使っている人へ】2025年の「延命術」と「買い替え時」
今まさにRX 5700 XTを使っている方。愛着のあるGPUを、できるだけ長く使いたいですよね。
🛠️ RX 5700 XT 延命術 (2025年版)
- FSR 3をマスターする
- 対応ゲームではFSR 3(フレーム生成)を積極的に有効にしましょう。非対応ゲームでも「FSR 2 (Quality)」設定は、画質低下を抑えつつ高いパフォーマンスを得るための必須設定です。
- 設定の「断捨離」
- 「ウルトラ」設定は諦めましょう。特にVRAMを大量に消費する**「テクスチャ品質」**は「高」または「中」に落とすのが効果的です。影、フォグ、アンチエイリアスなども一段階下げることで、VRAM負荷とGPU負荷を軽減できます。
- レイトレーシングは「オフ」
- 設定項目にあれば、迷わず「オフ」にしてください。これが最もパフォーマンスに貢献します。
- 冷却の再確認(メンテナンス)
- 6年も使っていれば、GPUグリスが乾き、ヒートシンクに埃が詰まっている可能性が高いです。分解・清掃・グリスの塗り直し(※自己責任)を行うことで、冷却性能が復活し、サーマルスロットリング(熱による性能低下)を防げます。
- ドライバーの更新
- AMD Software: Adrenalin Editionは常に最新に保ち、最新ゲームへの最適化の恩恵を受けましょう。
⌛️ 現実的な「買い替え時」のサイン
以下のサインが見えたら、本格的にアップグレードを検討する時期です。
- 1440pや4Kモニターを導入した時
- RX 5700 XTでは、もはや解像度に見合った性能は出せません。
- FSR 3を使っても60FPSを維持するのが困難になった時
- これが「ラスタライズ性能の寿命」のサインです。
- VRAM 8GBが原因の不具合が多発した時
- ゲームが頻繁にクラッシュする、テクスチャが読み込まれない(ボケボケになる)、激しいスタッタリング(カクつき)が起きる。これらはVRAM不足の典型的な症状です。
- RTX 5060 / RX 8600 XT など、次世代のミドルレンジGPUが登場した時
- RX 5700 XTからの乗り換え先として、最も「性能向上」と「電力効率の改善」を実感できるのは、最新世代のミドルレンジGPUです。2025年末~2026年にかけて、これらのモデルが市場を席巻し始めると、RX 5700 XTは急速に「過去の遺産」となるでしょう。
8. まとめ:条件付きで「アリ」。ロマン溢れる古強者
2025年10月現在、Radeon RX 5700 XTは**「死んではいない。しかし、最前線からは退いている」**というのが現実的な評価です。
かつての1440pのスタープレイヤーは、今や**「1080p限定、RTオフ、FSR 3ありき」**という制約の中で戦う、経験豊富なベテランとなりました。
その中古価格(コストパフォーマンス)は圧倒的であり、**「1080pでゲームができれば何でもいい」**という予算重視のPC自作において、これ以上ないほど魅力的な選択肢です。
しかし、その一方で、凄まじい電力効率の進化、レイトレーシングやAIの台頭といった、この6年間の技術的進歩を目の当たりにすると、その「古さ」も際立ちます。
RX 5700 XTは、「賢く、割り切って」付き合えば、2025年でもまだ十分に満足させてくれる、ロマン溢れるGPUです。あなたの使い方と予算に合致するかどうか、本記事がその判断材料となれば幸いです。

