RX 7400はなぜ「今」登場したのか? 8GB VRAMと55W TBPが切り拓く新たなPC市場
2025年も終盤に差し掛かった今、PCパーツ市場は次世代(RX 8000シリーズやRTX 50シリーズ)への期待と、現行世代の熟成が交錯する複雑な様相を呈しています。そんな中、2025年の夏(8月頃)にひっそりと、しかし確実に市場に投入されたGPUがあります。それがAMDの「Radeon RX 7400」です。
RX 7000(RDNA 3)シリーズのラインナップとしては最後発に近いエントリーモデルであり、その発表は上位モデルのような華々しいものではありませんでした。主にDellなどのメーカー製(OEM)PCへの搭載が先行し、自作PC市場(リテール版)への流通は限定的です。
しかし、そのスペックは「単なるローエンド」と切り捨てるにはあまりにも個性的で、特定の層にとっては「これこそが欲しかった」と言わしめるポテンシャルを秘めています。
「RX 7400は、2025年以降も使い続けられるのか?」
「絶対的な性能が低いのでは?」
「今からこれを買う(または搭載PCを選ぶ)メリットはあるのか?」
この記事では、Radeon RX 7400の真価を解き明かすため、その性能、想定される用途、メリット・デメリットを徹底的に分析し、2025年以降の将来性と限界について考察します。購入を検討している方、すでに搭載PCを手にしている方、双方に向けた詳細なガイドです。
🚀 RX 7400の「正体」:基本スペックと性能詳解
まず、RX 7400がどのようなGPUなのか、その「正体」を明らかにしましょう。このGPUの最大の魅力は、そのスペックの「バランス」と「割り切り」にあります。
RX 7400 主要スペック
| 項目 | スペック | 備考 |
| アーキテクチャ | RDNA 3 | RX 7000シリーズ共通 |
| GPUダイ | Navi 33 (縮小版) | RX 7600と同じ系統 |
| 演算ユニット (CU) | 28基 | 1,792SP |
| レイアクセラレータ | 28基 (第2世代) | |
| AIアクセラレータ | 56基 | |
| VRAM (メモリ) | 8 GB GDDR6 | |
| メモリインターフェース | 128-bit | |
| メモリ帯域幅 | 173 GB/s | |
| Infinity Cache | 32 MB (第2世代) | 実効帯域幅を向上 |
| TBP (標準ボード電力) | 55W | |
| 補助電源 | 不要 | PCIeスロット給電のみ |
| フォームファクタ | シングルスロット / コンパクト | メーカーにより異なる |
| 出力ポート | DisplayPort 2.1, HDMI 2.1 | 最新規格に対応 |
| AV1エンコード/デコード | 対応 |
注目すべき3つの「革命」
このスペック表から、RX 7400の特異性が見えてきます。
1. 驚異の電力効率「TBP 55W」と「補助電源不要」
最大の注目点は、なんと言ってもTBP 55Wという圧倒的な低消費電力です。これは、PCI Expressスロットから供給される電力(最大75W)だけで動作することを意味し、外部からの補助電源ケーブル(6ピンや8ピン)を一切必要としません。
これがどれほど革命的か。
数年前のエントリーGPU、例えばGTX 1650(75W)やRX 6400(53W)といった「補助電源不要」モデルは存在しましたが、RX 7400はそれらと同等かそれ以下の電力枠で、最新のRDNA 3アーキテクチャと後述する8GBのVRAMを実現しています。
2. エントリークラスに「VRAM 8GB」の衝撃
2025年現在、1080p(フルHD)解像度のゲーミングであっても、最新のAAAタイトルはVRAMを6GB、時には8GB以上要求するものが増えています。これまでエントリークラスのGPUは、コストのためにVRAMを4GBや6GBに抑えられるのが常識でした(前世代のRX 6400やRX 6500 XTは4GBでした)。
しかしRX 7400は、TBP 55Wという制約の中で8GBのGDDR6メモリを搭載してきました。これにより、1080p環境においてテクスチャ設定を妥協する必要性が大幅に減り、「VRAM不足によるカクつき」から解放されます。これは、ライトゲーマーにとって非常に大きなアドバンテージです。
3. 最新アーキテクチャの恩恵「AV1」と「DP 2.1」
ローエンドモデルは、しばしばアーキテクチャが古かったり、機能がオミットされたりしがちです。しかしRX 7400はRDNA 3世代。つまり、上位モデル(RX 7900 XTXなど)と同じ最新の機能を(規模は小さくとも)備えています。
- AV1ハードウェアエンコード/デコード: YouTubeやNetflixなどの動画配信、そしてOBSなどでのゲーム配信において、従来のH.264/H.265よりも高画質・低負荷な「AV1」に対応。動画視聴PCとして、またライトな配信PCとしても一級品の能力を持ちます。
- DisplayPort 2.1: 将来的な超高リフレッシュレートモニターや高解像度モニターにも対応できる、最新の出力規格を備えています。
📊 性能ベンチマークと実力(2025年時点の評価)
では、RX 7400の実際のゲーミング性能はどの程度なのでしょうか? OEM向けが中心のためリテール版のレビューは少ないですが、搭載PCのベンチマークやスペック(28 CU)から、その立ち位置を推測します。
比較対象
- 上位モデル: RX 7600 (32 CU, 165W)
- 前世代エントリー: RX 6400 (12 CU, 53W)
- 競合(旧): NVIDIA RTX 3050 8GB (130W)
1080p (フルHD) ゲーミング性能
RX 7400の主戦場は、間違いなく1080p解像度です。
- 軽量級ゲーム (Apex, Valorant, 原神など)
1080p・中~高設定で、100fps以上を維持する能力は十分にあると推測されます。競技設定であれば144fpsにも張り付き、eスポーツ用途にも対応可能です。
- 中量級ゲーム (エルデンリング, ホグワーツ・レガシーなど)
1080p・中設定をターゲットにするのが現実的です。VRAMが8GBあるためテクスチャは「高」にできるかもしれませんが、他の描画負荷を調整し、平均60fpsを目指すのが快適なラインとなるでしょう。
- 重量級ゲーム (Starfield, アランウェイク2, 将来のAAAタイトル)
1080p・低~中設定が必須です。ここでRX 7400の真価が問われます。
救世主「FSR 3 (Fluid Motion Frames)」
RX 7400のようなエントリーGPUにとって、AMDの超解像技術FSR 3(およびフレーム生成技術であるAFMF)は「必須技術」です。
絶対的な描画性能(CU数)はRX 7600に劣るため、重量級ゲームでは素の(ネイティブ)解像度で60fpsを出すのは困難です。しかし、FSR 3を「パフォーマンス」モードに設定し、さらにフレーム生成をオンにすることで、描画品質を大きく損なうことなく、フレームレートを1.5倍~2倍に引き上げることも夢ではありません。
TBP 55WのGPUが、最新のAAAタイトルを(設定次第で)60fps以上で遊べる可能性がある。これは、FSR 3という技術の恩恵に他なりません。
レイトレーシング性能
RDNA 3アーキテクチャは第2世代のレイアクセラレータを搭載しており、レイトレーシング(RT)に対応しています。
しかし、結論から言えば、RX 7400で実用的なレイトレーシング体験を期待してはいけません。
28基のCUでは、RTをオンにした際の負荷に耐えられません。FSR 3を併用しても、快適なゲームプレイは難しいでしょう。RT機能は「対応している」というお守り程度に考え、基本的にはオフにしてグラフィック(ラスタライズ)性能にリソースを全振りするのが賢明です。
🎯 RX 7400の最適な「用途」
このGPUの特性(低電力・補助電源不要・VRAM 8GB・AV1対応)は、非常に明確な「刺さる層」を生み出します。
1. メーカー製スリムPCの「最強アップグレード」
Dell、HP、Lenovoなどのメーカー製スリムタワーPC。これらは電源容量が小さく(250W~350W程度)、内部スペースも狭く、そして補助電源ケーブルなど来ていません。
こうしたPCで内蔵GPU(iGPU)から脱却し、まともなゲーミング性能と動画編集能力を手に入れたい場合、「補助電源不要」「シングルスロット(またはコンパクト)」「低発熱」であるRX 7400は、2025年現在、ほぼ唯一無二の最適解となります。
2. 静音・省電力「マルチメディアPC」
AV1対応により、4K動画の再生もCPUに負荷をかけず極めてスムーズです。TBP 55Wの低発熱は、ファンノイズを最小限に抑えることにも繋がります。
「ゲームはたまに軽いのをやる程度。普段は高画質な動画配信を快適に、静かに楽しみたい」というリビングPCや書斎PCに最適です。
3. 1080p「限定」ライトゲーミングPC
「ゲームは1080pモニターでしかやらない」「最高設定にはこだわらない」「でもVRAM不足でカクつくのは嫌だ」という、堅実なライトゲーマー層です。RX 7400は、彼らの要求をTBP 55Wという枠内で完璧に満たします。
4. スモールフォームファクタ (SFF) PC自作
超小型ケースでPCを組みたい自作ユーザーにとっても、補助電源不要でコンパクトなRX 7400は魅力的な選択肢です。電源ユニット(SFX電源など)の容量を圧迫せず、ケース内のエアフローも確保しやすい利点があります。
⚖️ 徹底分析:メリットとデメリット
RX 7400の強みと弱みを、改めて整理します。
🟢 メリット (強み)
- 圧倒的な電力効率 (TBP 55W): ワットパフォーマンスが極めて高い。電気代の節約にもなります。
- 補助電源不要: これが最大のメリット。あらゆるメーカー製PCへの換装(アップグレード)の可能性を生みます。
- エントリーながらVRAM 8GB: 1080p環境での圧倒的な安心感。テクスチャ設定で妥協しなくて良い。
- 最新のメディア機能 (AV1エンコード): 動画視聴・配信で上位モデルと遜色ない機能性。
- 最新の出力端子 (DP 2.1): 将来的なモニターのアップグレードにも対応可能。
- コンパクトな設計: SFFやスリムタワーへの適性が高い。
- FSR 3の恩恵: 性能の底上げが期待できる。
🔴 デメリット (弱み)
- 絶対的な描画性能の低さ: 上位のRX 7600やRTX 4060と比べれば、当然ながら性能は大きく劣ります。
- 1440p以上の解像度は非推奨: 1080p専用と割り切るべきです。
- 実用性のないレイトレーシング性能: RT目当てで買うGPUではありません。
- PCIeインターフェースの懸念: RX 6400/6500XTがPCIe 4.0 x4接続だった反省から、RX 7400はPCIe 4.0 x8で接続されている可能性が高いです(※要確認)。もしx4だった場合、PCIe 3.0環境では性能が低下しますが、x8であればその心配はほぼ不要です。
- 入手性の悪さ (2025年11月時点): OEM向けが中心であり、単体(リテール版)での入手がやや困難、または割高になっている可能性があります。
📈 将来性と限界:2025年以降も戦えるか?
この記事の核心、「2025年以降も使えるのか?」に答えます。
結論:用途を「1080p」に限定し、FSR 3を賢く使う前提であれば、2026年、2027年でも十分「使える」GPUです。
将来性(生き残る道)
- FSRの進化: 今後、FSR 4, 5…と技術が進化すれば、RX 7400の延命(性能の底上げ)は続きます。AMDがRDNA 3世代のサポートを続ける限り、この恩恵は受けられます。
- インディーゲーム・軽量ゲームの隆盛: すべてのゲームがAAA級のグラフィックスを要求するわけではありません。RX 7400は、そうした大多数のゲームを快適にプレイする能力を今後数年間、持ち続けるでしょう。
- 動画視聴・メディアPCとしての役割: AV1エンコード/デコード機能は、今後10年スパンで見ても陳腐化しにくい「資産」です。
限界(厳しい道)
- 要求スペックのインフレ: 2026年以降に登場するであろう次世代コンソール(PS6など)に合わせたゲームが登場し始めると、1080pであっても「最低設定」が厳しくなる瞬間が来る可能性はあります。
- 1440pへの移行: 世の中のスタンダードが1440p(WQHD)に移行した場合、RX 7400は完全に取り残されます。このGPUは1080pと共に生きる運命です。
- VRAM 8GBの限界: 2025年時点では1080pに十分な8GBですが、2028年頃には1080pでも12GBが推奨される……といった未来も否定はできません。
💡 購入を検討している人へ
あなたがRX 7400(または搭載PC)の購入で迷っているなら、以下のリストをチェックしてください。
【こんな人には「強く」おすすめ】
- メーカー製スリムPCのグラボを(iGPUから)アップグレードしたい。
- とにかく静かで低消費電力なPCが欲しい。
- PCの用途は動画視聴がメインで、ゲームは1080pの中設定でたまに遊べれば良い。
- 補助電源ケーブルの配線をしたくない、または電源容量に不安がある。
- VRAMは絶対に8GB欲しいが、予算は抑えたい。
【こんな人には「非推奨」】
- 1440pや4Kモニターでゲームがしたい。
- レイトレーシングを少しでも体験してみたい。
- AAAゲームを1080pの「最高設定」でヌルヌル動かしたい。
- 予算に余裕があり、電源容量(550W以上)も確保できる。(→ この場合はRX 7600やRTX 4060を推奨します)
- PC自作に慣れており、中古のRX 6600 XTやRX 6700 XTを安く探せる。(→ 中古のミドルレンジの方が純粋な性能は高い可能性があります)
🔧 現在使っている人へ:RX 7400を活かしきる設定術
すでにRX 7400搭載PC(おそらくDellなどのOEM機)をお持ちの方へ。そのGPUのポテンシャルを最大限に引き出すためのアドバイスです。
1. AMD Software の「FSR 3」を使い倒す
RX 7400の生命線です。ゲーム側がFSR 3に対応していれば積極的にオンにしましょう。もし対応していなくても、AMD Software(ドライバ)側で強制的にフレーム生成を有効にする「AFMF (AMD Fluid Motion Frames)」機能が使える場合があります。
2. ゲーム設定の「勘所」
設定で真っ先に妥協すべきは「影(シャドウ)」と「レイトレーシング(オフ必須)」です。逆に、VRAM 8GBの恩恵を活かすため「テクスチャ」品質は「高」または「最高」にしても問題ない場合が多いです。
「テクスチャは高いが、影は中、FSRはオン」これがRX 7400の最適解です。
3. ドライバは常に最新に
AMDはドライバの更新によってパフォーマンスが劇的に改善することがあります。特にAFMFなどの機能は、最新ドライバで安定性や対応ゲームが増えていきます。常に最新版をチェックしてください。
4. 冷却の確認
TBP 55Wとはいえ、スリムケースやSFFケースでは熱がこもりがちです。GPUの温度が80度を超えるようなら、ケース内のエアフロー(空気の流れ)を見直すか、ファン設定を調整する必要があります。
🏁 まとめ
Radeon RX 7400は、2025年のGPU市場において、ハイエンド競争とは全く別の土俵で輝く「いぶし銀」のような存在です。
TBP 55W、補助電源不要という圧倒的な使いやすさを武器に、旧世代のPCを一気に「現代(2025年)」のレベルに引き上げるアップグレードパスを提供します。
そして、エントリークラスでありながらVRAM 8GBとAV1エンコード、DP 2.1という「未来への投資」も忘れていません。
もちろん、絶対性能はミドルクラスに及びません。1080pという「枠」を超えることもできません。
しかし、その「枠」の中で、FSR 3という技術を駆使し、驚くべき電力効率で動作する姿は、まさに「2025年以降の新しいエントリーGPUのカタチ」と言えるでしょう。
あなたのPCがスリムタワーで、あなたの予算が限られていて、あなたの主戦場が1080pであるならば。RX 7400は、2025年以降もあなたの強力な相棒であり続けます。

